ピロリ菌感染症とは
ピロリ菌感染症とは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と呼ばれる細菌によって引き起こされる感染症です。
ピロリ菌は人の胃の中のみに住みつき、主に萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなど、胃の病気を引き起こす原因ともいわれています。その中でも、特に胃がんの多くは、ピロリ菌感染による慢性萎縮性胃炎が見られることがわかっています。
日本の胃がん患者さんのうち約98%がピロリ菌と関わっているとされていますが、ピロリ菌は除菌できる細菌ですので、しっかりと除菌療法を行うことで胃がんの発生リスクを減らすことが可能です。
また除菌療法の対象とされる病気は、胃十二指腸潰瘍、早期胃がんの内視鏡治療後、胃MALTリンパ腫、血小板減少性紫斑病の4つに限られていましたが、2013年に慢性胃炎に対する除菌療法が保険適用となったことで、より多くの方が治療を受けることができるようになりました。
現在、日本人の約半数がピロリ菌に感染していると考えられていますが、衛生環境の改善などにより若年者の感染率は急激に低下しており、感染率が高いのは50歳以降の中高年です。
しかし、新規の感染がゼロになったわけではありません。多くの場合、幼少期にピロリ菌に感染し、胃粘膜に住みつくことで炎症(胃炎)を引き起こしています。感染は生涯にわたり持続することが多く、炎症の結果として胃粘膜の萎縮がみられるようになります。
ピロリ菌感染症の症状
乳幼児期にピロリ菌に感染した場合、痛覚のない胃粘膜は痛みなどの自覚症状がないまま徐々に傷つけられ、胃炎を引き起こします。
ピロリ菌感染症の症状として、胃・十二指腸潰瘍では上腹部痛が見られますが、ピロリ菌感染に伴った慢性萎縮性胃炎では、ほとんどの方に症状はありません。
アルコールや塩分などの刺激物を摂取することで、胃粘膜障害が悪化し、胃潰瘍や胃がんなどへ進行すると考えられています。
また、最近の研究では、胃もたれや不快感など胃の諸症状にも、ピロリ菌が原因として関係していることがわかっています。
ピロリ菌感染症の原因
ピロリ菌感染症は、井戸水などの不衛生な水を飲むこと、また感染した大人と箸を共有して食事を食べたり、離乳食の時期に噛んで与えたりすることなどが、主な原因となります。感染時期は5歳くらいの乳幼児期までと考えられていますが、現在では井戸水の使用も減り、新たな感染率は低くなっています。
感染の割合としては、50歳代では約50%、60歳代では約60%と、年代が上がるにつれて高くなっています。
また、さまざまな毒素をもつピロリ菌ですが、その病原因子について、ピロリ菌自身が持つウレアーゼという酵素が大きく関わっていることが分かってきました。
かつては、強い酸性を保っている胃の内部では細菌が棲みつくことはできないと考えられてきました。
しかし、このウレアーゼという酵素によって、粘液中の尿素を分解しアンモニアを産生することで、胃酸は中和され、ピロリ菌は胃に定住できていることがわかってきたのです。
ピロリ菌感染症の検査
ピロリ菌感染の有無は検査によって調べることができます。 その検査方法として、内視鏡を使用する方法と、内視鏡を使用しない方法があり、それぞれに長所、短所があります。
内視鏡を使用する検査法
胃の組織を一部採取して感染の有無を判定します。
培養法
結果が出るまで一週間ほどかかるため、通常はあまり行われない
鏡検法
胃内部の組織を採取し、顕微鏡で観察する方法
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素の有無で判定する方法、名前のとおり判定が早いことが特徴
内視鏡以外の検査法
血液・尿・便を用いる行うものと、尿素呼気試験(吐く息を調べる)があります。
血清抗体および尿中抗体法
血液や尿を用いた検査で簡単で、しかも偽陰性は少ない
便中抗原法
便を用いた検査で、ピロリ菌が少ないと偽陰性が起こる
尿素呼気試験
吐き出した息でウレアーゼの有無を調べる方法、胃のピロリ菌の状態を直接反映できる
ただし、これらの検査を保険適用で受けるためには、まず胃内視鏡検査によって、胃炎の有無や胃がんがないことなどを確認することが必要です。
ピロリ菌感染症の治療法
検査でピロリ菌の陽性が判明したら、特定のお薬を使った治療法により、ピロリ菌の除菌をおこないます。具体的には、胃酸抑制薬と2種類の抗生物質を一定期間(約1週間)、医師の指示通りに毎日服薬するという方法です。
このように初めて行う除菌治療を、「一次除菌」と呼びます。一次除菌の後2ヵ月以上が経過したのちに、尿素呼気試験、もしくは便中抗原判定によって、ピロリ菌の有無を判定します。この検査でピロリ菌が確認できなければ、除菌は成功したことになります。 一次除菌をしっかり行うと、その成功率は80~90%です。
しかしおよそ10から20%程度は、一次除菌が成功しないケースがあります。その場合は、薬剤を変更して二次除菌を行います。